建築専用ソフトの比較(2022版)
概要
-
建築専用ソフトの比較
- Trimble SketchUp
- Autodesk(Autodesk/Revit/3dsMax/Maya)
- Blender
- Vectorworks
- Rhinoceros
- Shade3D
- Maxon C4D
- ArchiCAD
-
価格比較とまとめ
- 価格比較
- MacOS対応ソフト一覧
- 総合評価
-
価格比較表のみを見たい方へ
建築専用ソフトの比較
導入など
こちらに関してはひそかに長年に思っていたテーマなのですが、
『ひょっとすると建築専用ソフトには既に最適解が出ているのではないか?』
という疑問に対してのアンサー記事です。
まずは過去に話題になったツイート内容の抜粋から
気になったので建築設計に使われる3Dソフトのアクティブユーザー数を調べてみました。
— アサヒかーき_建築手記 (@asahi_blog) 2022年5月2日
・ArchiCAD 12万
・Maxon C4D 33万
・Rhinoceros 50万
・Revit 50万
・Vectorworks 65万
・3dsmax,maya 120万
・blender 550万
(Autodesk 全ソフト合計 1800万)
・SketchUp 4120万
ソース:
— アサヒかーき_建築手記 (@asahi_blog) 2022年5月2日
Autodeskのユーザーhttps://t.co/roXJviwPoy
blender/3dsMax/maya/C4Dのユーザー(こちらは推定値)https://t.co/C89CYV7cRA
SketchUpのユーザー(動画7分から)https://t.co/8KHAjAPs8J
ArchiCAD/Vectorworksのユーザーhttps://t.co/hJ5NRxxjox
ソース続き
— アサヒかーき_建築手記 (@asahi_blog) 2022年5月2日
Rhinoのユーザー(サイト下部のMcNeel氏の引用より)https://t.co/4Cc48Ao4nn
Revitのユーザー(こちらも推定値。400万人とする見方も。)https://t.co/jMKrpsMq4r
というものなのですが、円グラフに変換しますと…
といった構成になります。
Twitterの反応など
実際こちらの円グラフ、どんな性質の比較なのか、真偽はどうなっているのか判断ができない方が多いと思うので説明しますが、「建築専用ソフト」と称しても建築設計・構造設計・設備設計の全てを包括しつつも特化している「The・唯一の建築ソフト!」のようなモノは現状市場には存在していません。
ですから、建築従事者は「それぞれ用途に合わせてソフトの特定の機能を使用し、多機能ソフト同士を連携して設計成果を出す」というのが実情でしょう。
そして専門性のある高機能ソフトであれば、おのずと建築用途のアクティブユーザー数が少なくなるため、3Dモデリングができて、2DCAD図面にデータを変換できる、レンダリングができるという条件の下でユーザー母数が大きいソフトを選出しています。
データのソースは、各ソフト社のホームページ掲示板に記載されたものや、デジタルフォーラムの動画などを参照しています。
そして皆さんの反応で特に目立ったのが、
という部分でした。
Trimble SketchUp
SketchUpの概要
ユーザー数最多のTrimble SketchUpは、現在全世界4000万人以上のライセンス登録者数、そして建設プロジェクトで累計10億件を超える実績があり、まさに有望建築ソフトの一つとも言えます。
ソフトの操作やUIがシンプルで、PCのOS*1はWindows、MacOSに対応していて、iPadタブレットや携帯端末にも対応しています。
SketchUpの優位性など
建築、都市、景観、室内の設計などの分野に対応できる万能型軽量級ソフトで、手描きスケッチのように3Dモデルを直感的に操作できることに定評がありますし、
- 最も使用者が多いとされる定番機能を兼ね備えたSketchUp Pro。
- ネットに常時接続する必要がある代わりに無料で使用できるオンライン上サービスのSketchUp Free。
- 現在公式配布が終了したスタンドアロンでも使用できる無料ソフトSketchUp Make 2017。
- iPadに本格導入されたサブスクリプション型SketchUp Go。
などのユーザーが多いライセンスに加え、その他プロライセンスと変わらない機能で割引して使える教育ライセンスのSketchUp Studio for University、Microsoftアカウントで無料で使えるSketchUp for school、ポイントクラウドを扱えるSketchUp Studioなどそのライセンスサービスの多様さと価格の安さが人気の秘訣でしょう。
加えてSketchUpはモデルのデータ軽量化という点においては3DCADでは優れています。
SketchUpの価格など
SketchUp Free/Make 2017は無料ですが、商用であればSketchUp Go/Pro/Studioライセンス以上の権限が必要です。
2022年8月時点では、
- Go版年間$119(≒16,000円)
- Pro版年間$299(≒40,000円)
- Studio版年間$699(≒93,000円)
- 学生版/教育機関年間$55(≒7,500円)
という価格設定になっています。
SketchUpのネックなど
SketchUp自体は初心者でも1年から2年ほどで操作をマスターできるぐらい基本操作は簡単ですが、その反面デメリットもはっきりしていて、高度なモデリングをする際には補助系のプラグインや他社ソフトとの連携に依存する部分が大きくなります。
そして有料プラグインなどもサブスクリプション型を採用していることが多いため、実際のソフト購入の支出よりも多く支払うケースがあります。
またSketchUpはTeklaなどの構造系ソフトとも連携することができますが、そういった構造/設備のソフトはMacOSにサポートしていないことから、事実上WindowsOSが搭載されたPCでないと建築のワークフローとして一貫できないことが挙げられます。
Ruby言語を基盤とした原生プラグインは完成度が高い機能のものが多い反面、更新頻度が低く、多機能変数設計ツールがないことや曲面設計に対しては精度が低いなどの明らかな欠点があります。
Autodesk連合
Autodeskソフトの概要
Autodeskは建築工業ソフトウェアの大手社で、
などの高性能重量級ソフトを抱えています。
ツイートから抜粋した内容では、3dsMaxとMayaが合わせて120万人のユーザー数があり、Revitが50万人いるとのことでしたが、推定値ということでグラフではAutodesk系列のソフトをまとめて取り上げました(1800万ユーザー数はAutodesk決算書より)。
Autodeskソフトの優位性など
AutoCADはAutodesk社の主力ソフトで2DCADの分野では全世界で広いシェアがあります。Autodesk社の真価は、AutoCADソフトを中心としたサードパーティーソフトの充実からくるもので、上記Revit、3dsMax、Mayaらは元は他社ソフトから買収したもので、業種毎にサードパーティーの機能を強化しつつも、多様な自社ソフト間での良好な互換性を持つことで一貫したワークフローを実現しています。
またライセンス形態の変更頻度もかなり多く、AutoCAD LTといった安価版のライセンスと全機能を備えたAutoCAD完全版の販売を一変して、AutoCAD LTの価格で全機能を使用できるライセンスAutoCAD無印*2を打ち出すなど、市場のニーズに敏感なソフト社です。
3dsMaxは主にアニメーション用途で用いられますが、特に建築室内設計とパース制作での優位性が強く、照明、レンダリング、マテリアル、高品質モデルアセットや専用のプラグインが豊富で成熟したワークフローが出来上がっているため、3dsMaxのパースの外注を頼みやすく、品質も安定しています。
Mayaはアニメーションや動画制作の為に用いられるハイエンドソフトですが、高機能3Dモデリング、モーション制作機能を搭載していて、3dsMax/Maya+ZBrushを組み合わせることでAAA制作の映画プロジェクトやゲーム開発などの領域で、非常に高度で高品質なプロダクトを制作することができるCGソフトです。建築設計でもNURBS*3を扱える貴重な非線形ソフトとして、建築のコンセプト設計や限定的な曲面設計初期段階に用いられます。
Revitはリバースエンジニアリング向けのBIM(ビルディングインフォメーションモデル)ソフトとして、建築設計から設備設計、施工管理、後期運用までの建築物全周期設計を視野に入れたデータベース建築ソフトです。モデリングオブジェクト自体に属性を記入することで予算/部材管理や土木積算、面積、階高、設備エンジニアリングを効率化し、Navisworksと連携することで衝突回避検査をするなど多機能な連携が最大の強みです。
Autodeskソフトの価格など
Autodeskの製品は学生/教育機関向けには無料ライセンスを提供していて、1年毎に再契約する必要はありますが、学生期間で高機能ソフトをほぼ全て無料で使える点は魅力的です。
2022年8月時点、商用の場合(米/日で価格設定に差があります)
- AutoCAD(米LT、日本無印)年間$460(71,500円)
- AutoCAD Plus版*4年間$1,865(231,000円)
- 3dsMax年間$1,785(286,000円)
- Maya LT年間$290(42,900円)
- Maya年間$1,785(286,000円)
- Revit LT年間$495$(85,800円)
- Revit年間$2,675(427,900円)
という価格設定になっています。
Autodeskソフトのネックなど
まずAutodesk製品はAutoCADを除くとMacOSに対応していないため、WindowsOSを搭載したPCでソフトを使用するのが前提になります。
建築業界使用率の高いAutoCADですが、互換性の高いソフトのBricsCAD、ARES、IJCADや国内用途に特化されたDRA-CADソフトなどが日本のシェアを伸ばしてきたこともあり、AutoCADも費用対効果を重視したライセンスを売り出すなど、絶対的なシェアを誇るAutodeskとしては徐々に余裕がなくなる商業展開となっています。
3dsMaxは依然として建築パース外注の第一候補ソフト(または他ソフトデータを外注先に送り、3dsMax内でCGを作り直してもらう)ですが、前時代的で難解なUIが学習コストを無駄に釣り上げている点、MayaのNURBSを扱う機能は同じくNURBSを扱える人気ソフトRhinocerosが台頭してきたことにより、学習コストなどの面から建築用途の利用は減っています。
RevitはBIMツールとして多方面ソフトとの連携範囲が非常に広いものの、トラブルシュートツールとしての効率は低いです。例えば、3Dモデリングに情報を付与し、部材使用量集計、階高調整、MEPモデリング調整などの局所的に効率化された利点があっても、FEMは非対応で、積算アセンブリはありませんし、モデリング、図面作成やレンダリングプロセスが煩雑で、Revitなら図面修正にかける時間が2DCADなら1/10で事足りる…なんて状況に遭遇しがちです。
またAutodeskソフトの基本容量が10GB以上と大きく、携帯などの簡易端末で3Dモデルを気軽に確認できない点が、施工現場が遅々としてRevit内のモデルを参照して効率化できない理由だと言えます。
Blender
blenderの概要
2019年のblender Ver.2.9アップグレードを機に、3DCG界隈を激震させたフリーソフト。そして公式サイトのダウンロード数が1300万回を超え、全世界に推定550万人のアクティブユーザーがいるとされるダークホース。
blenderはオープンソースを基調とした軽量級3D動画制作ソフトです。
- 3Dモデリング
- UVマッピング
- テクスチャリング
- アニメーション
- パーティクル
- スキニング
- リギング
- ヘアー
- 物理演算
- スクリプティング
- レンダリング
- モーショントラッキング
- コンポージング
- ゲーム制作
などの幅広い制作機能を兼ね備え、尚且つ驚く程の速度で成長をし続けているソフトです。
主流のWindowsOSだけでなく、Linux、MacOSなどでも使用可能なOpenGLを採用しています。
blenderの優位性など
ツイッターで常に#b3dのハッシュタグと共に凄いクオリティのインディーズ作品が流れてくる、今最も勢いがある3DCGソフト。
blenderの一番の優位性として挙げられるのが、オープンソース且つ無料な点です。
高い自由度でUIを編集できるため、ソフトのレイアウトを自分仕様にカスタムできますし、複数のディスプレイにも対応しています。
外部の補助ソフト無しにCycles Render/Eveee Renderで高品質レンダリングを行うことが可能で、CG制作を高速化できます。
またblenderのシェーダーノードを編集する事で局所的に3Dモデルを変数化することができます。
アドオンの数、YouTube上のチュートリアル動画が非常に豊富なので多様なリソースを利用する事ができます。
blenderの値段など
現在blenderはダウンロード無料です。ですが、同時にblender基金にいくらでも寄付することができます。
無論blenderは寄付によってマネタイズしているわけではないと思いますが、例え1円でも、100円でも、10,000円でも、皆さんの寄付がblenderを開発する団体の励みになります。
そしてblenderに欠かせないアドオン*5ですが、こちらも殆どが数千円から一万円以下の価格で購入できるので、ツールコストは低く抑えられます。
blenderのネックなど
建築ソフトを購入する場合、学習コストのハードルがあるため指定された地域のカスタマーサービスにソフト操作の問い合わせをすることができますが、blenderにアフターサービスはないため『こういうことがやりたい』といった問題は基本掲示板フォーラムで情報共有するか、自分自身で解決するしかありません。
建築の実務でblenderを導入すると、拡張子の関係で成熟したワークフローを持つソフトに外注をするのが困難だったり、互換性という点において不利な面が目立ちます。
素晴らしいツールのblenderですが、ソフトの機能や操作性がアニメーション寄りで建築、工業設計には適していない部分がまだまだ多いです。
現状CADライクの操作ではないこと(または変更する手段が乏しい部分)がblenderの不足点と言えます。精密性を重視する建築ソフトの仕様上、「編集ツール+直接数値入力して操作を反映」するのが好ましいため、端数が生まれないような正確なモデリングを必要以上に心がける必要があります。コマンドラインの命名法やホットキーの振り分けに法則性が薄く、傍目から見て雑で記憶し難い点も気になります。
建築系、構造系ソフトとの連携が薄い点も減点項目でしょう。
2DCADのような図面注釈やバッチ処理を行う為の選択肢が少ない上に高度な図面用設定は皆無なため、『他の建築ソフトではできたのに…』といった一手間が増えることもしばしばです。これからに期待、といったところでしょうか…
*1:オペレーションシステム
*3:非一様有理Bスプライン
*4:Mechanical、Architecture、Electrical、Map 3D、MEP、Plant 3D、Raster Designの7業種ツールセットを含む
*7:Computational Aided Industrial Design
*8:Basicは2500 x 2500、Standardは4500 x 4500、Professionalは22528 x 22528
*9:ビャルケ・インゲルス・グループ
*10:C4D、Red Gaint、Redshift、ZBrush 2022、Universe、Forger計6製品
*11:ArchiCADの処理速度はRevitよりも45%速い※Graphisoft社調べ
*13:オススメしたいのはVectorworks ArchitectかDesign Suite
*14:実際にはArchiCADも機能が更新されれば最新版を買いなおすことがあるため